教科書に載っている日本美術の名作|まずは実物で観たい10選

教科書で見たあの名作を、いつか実物で

美術や日本史の教科書で、誰もが一度は目にした日本美術。三つの顔を持つ憂いを帯びた仏像、金地に躍る風神と雷神、大きく砕ける波——図版で見慣れたあの名作を、いつか実物で観てみたい。そう思ったことはないでしょうか。

筆者は美術検定の勉強をしながら、本で日本・西洋の美術史を学び直しています。学び始めて実感したのは、「図版で知っている」と「実物を観た」はまったく別物だということ。そしてもう一つ、日本美術には強みがあります。その多くが、日本国内で実物に会えるのです。海外の名画は来日を待つしかありませんが、日本美術なら自分の足で行けます。

この記事では、教科書によく登場する日本美術の名作を10点、それぞれ「どこで観られるか」とあわせて紹介します。実物を観に行くための予習や、「いつか観たい」リストづくりに使ってください。西洋絵画については教科書に載っている西洋絵画の名作10選にまとめてあります。

教科書に載っている日本美術の名作10選

1. 縄文土器・土偶

日本美術の出発点。縄が生んだ渦巻く文様や、遮光器土偶のふしぎな造形は、一万年以上前の人々の祈りと美意識を今に伝えます。用途は今もはっきりしないところがあり、そのわからなさも魅力です。東京国立博物館などで実物に会えます。(縄文土器・土偶の記事

2. 興福寺《阿修羅像》

戦いの神なのに、少年のような憂いをたたえた表情。三つの顔と六本の腕を持ちながら、驚くほど繊細で気品のある姿です。天平文化を代表する脱活乾漆の傑作。奈良・興福寺の国宝館で拝観できます。(阿修羅像の記事

3. 東大寺《大仏(盧舎那仏)》

座った姿で約15メートル。国家の総力を挙げて造られた、圧倒的なスケールの仏です。疫病と混乱の時代に、聖武天皇が祈りを込めた巨大な事業でもありました。奈良・東大寺で、いつでも見上げられます。(東大寺の大仏の記事

4. 《鳥獣戯画》

兎と蛙が相撲をとり、猿が僧のふりをする。平安時代の墨線だけで描かれた絵巻ですが、その筆の速さと軽やかさは今も驚異的です。「日本最古の漫画」とも呼ばれます。京都・高山寺伝来で、東京国立博物館などに分蔵されています。(鳥獣戯画の記事

5. 運慶《金剛力士像(仁王像)》

東大寺南大門で参拝者を見下ろす、高さ8メートルを超える一対。盛り上がる筋肉と玉眼の眼光が、木像とは思えない生命力を放ちます。武士の時代の力強さを刻んだ、鎌倉彫刻の代表作です。(運慶の記事

6. 狩野永徳《唐獅子図屏風》

金地の画面を悠々と歩む、巨大な二頭の獅子。桃山時代の豪壮な気風を、これほど端的に表す絵はありません。天下人の時代の「強さの美」です。皇室に伝わる作品で、三の丸尚蔵館などで公開されます。(狩野永徳の記事

7. 長谷川等伯《松林図屏風》

霧の中に浮かぶ松林。描かれていない余白が、湿った空気そのものになっています。永徳の豪華さとは正反対の、静寂と余白の美。日本人の心にしみる一双です。東京国立博物館蔵、正月前後に公開されることが多い作品です。(長谷川等伯の記事

8. 俵屋宗達《風神雷神図屏風》

金地の右に風神、左に雷神、あいだに大きな余白。琳派の原点であり、光琳・抱一が時代を超えて描き継いだ構図でもあります。国宝。京都・建仁寺の所蔵で、京都国立博物館に寄託されています。(風神雷神図屏風の記事俵屋宗達の記事

9. 葛飾北斎《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》

大きく砕ける波と、その向こうに小さく見える富士。世界でもっとも知られた日本の絵といっていいでしょう。西洋の画家たちにも衝撃を与えました。版画なので各地の美術館が所蔵し、浮世絵の企画展で出会えます。(北斎の記事

10. 伊藤若冲《動植綵絵》

鶏の羽の一枚一枚、植物の葉脈まで、執拗なまでに描き込まれた極彩色の連作。江戸の「奇想」を代表する画家の、常識を超えた密度です。皇室に伝わり、三の丸尚蔵館などで公開されます。(伊藤若冲の記事

ほかにも押さえておきたい名作

10選には収まりませんが、教科書でおなじみの作品を挙げておきます。平安の絵画では《源氏物語絵巻》、工芸では宇宙を思わせる曜変天目、建築・庭園では金閣寺龍安寺の石庭。近代に入れば横山大観上村松園も外せません。日本美術は、絵画だけでなく彫刻・工芸・建築・庭園まで含めて「美」を考えるところに、独特の広さがあります。

並べてみると見えてくること

こうして10点を並べると、日本美術の面白い性格が浮かび上がります。ひとつは余白の力。等伯の松林図も宗達の風神雷神図も、描かない部分が主役級の働きをしています。もうひとつは豪華と簡素が同時に存在すること。永徳の金地の獅子と、等伯の墨の松林が、ほぼ同じ時代の産物なのです。金閣と銀閣の対比にも同じことが言えます。

そして何より、日本人にとって日本美術は、やはりどこか親しみやすい。観ていて落ち着く、という感覚があります。西洋美術の「革命の歴史」としてのスリルとはまた別の、静かな心地よさです。学び直しの面白さは、こうした違いが自分の言葉で説明できるようになっていくところにあります。

実物を観るための予習として

日本美術を観に行くうえで、ひとつ知っておきたいことがあります。絵画・絵巻・屏風は、光に弱いため通年公開されないことが多いという点です。仏像や建築・庭園は比較的いつでも会えますが、紙や絹の作品は展示替えや特別展のタイミングが中心になります。

だからこそ、「観たい」と決めておくことが効いてきます。展示の告知を見たときにすぐ動けるからです。より深く知りたい方は、仏像の見方浮世絵の見方もあわせてどうぞ。分類や技法の枠組みが頭に入っていると、実物の前での情報量がまるで変わります。

「観たい」を記録して、いつか実物で

ここで紹介した名作は、その多くが日本国内で実物に会えます。海外の名画と違い、来日を待つ必要はありません。大切なのは、「いつか観たい」という気持ちを、そのつど残しておくこと。観たい作品をリストにしておけば、公開情報に出会ったときにすぐ動けますし、実際に観たら記録が積み重なっていきます。

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