源氏物語絵巻の見どころ|平安の“大和絵”、引目鉤鼻に込められた美

源氏物語絵巻——物語を絵にした、平安の“大和絵”

雅な装束の貴族たち、御簾の奥の恋のかけひき。《源氏物語絵巻》は、紫式部の『源氏物語』を絵に描いた、平安貴族文化の結晶ともいえる絵巻です。金や濃い色を使った画面は華やかで、静かなのに、登場人物の心のさざめきまで伝わってくるようです。

筆者は美術検定の勉強をしながら、日本史と美術を学び直しています。物語を絵にする、という日本ならではの表現には、いつも心惹かれます。文字で語られる世界を、どんな構図や色で描くのか——そこには、絵師の工夫と美意識がぎゅっと詰まっています。この記事では、《源氏物語絵巻》の魅力を、その独特な技法を軸に、実物を観る前の予習としてまとめます。

源氏物語絵巻の基本情報

  • 時代:平安時代の後期(12世紀ごろ)に制作された、現存最古級の物語絵巻
  • 原作:紫式部『源氏物語』(光源氏を中心とした平安貴族の物語)
  • 様式:日本的な主題・様式で描く「大和絵(やまとえ)」
  • 指定・所蔵:国宝/徳川美術館(名古屋)・五島美術館(東京)などに分かれて伝わる

絵巻は、物語の本文を書いた「詞書(ことばがき)」と、その場面を描いた「絵」が、交互に続く形式になっています。読んで、眺めて、また読む。文学と絵画を同時に味わう、贅沢な鑑賞体験だったのです。

見どころ・大和絵の技法

1. 引目鉤鼻——顔を描かない“品格”

登場人物の顔をよく見ると、目は細い一本の線、鼻は「く」の字で、みな似たような表情に描かれています。これを「引目鉤鼻(ひきめ かぎはな)」といいます。個人の顔立ちを写実的に描くのではなく、あえて類型的に整えることで、貴族の品格や、静かで雅な雰囲気を表しているのです。表情を描き込まないからこそ、観る人が心情を想像する余地が生まれます。

2. 吹抜屋台——屋根を外して室内を見せる

建物の場面では、屋根や天井が描かれず、斜め上から室内を見下ろすように描かれています。これが「吹抜屋台(ふきぬき やたい)」です。屋根を取り払うことで、部屋のなかにいる人々の位置関係や、その場の空気が一目で分かる。まるでドールハウスをのぞき込むような、独特の視点です。

3. 濃彩とにじむ心情——色で語る

《源氏物語絵巻》は、下絵の上に絵の具を厚く塗り重ねる「つくり絵」という技法で、濃く華やかに彩色されています。色の選び方や画面の構図には、その場面の登場人物の心情——喜び、嫉妬、悲しみ——がそっと映し込まれているといわれます。派手なようでいて、じつに繊細に感情を語る絵巻なのです。

物語と絵——文学と美術の結びつき

《源氏物語絵巻》の面白さは、日本を代表する文学と美術が、分かちがたく結びついているところにあります。世界最古級の長編小説ともいわれる『源氏物語』。その豊かな物語世界を、当時の絵師たちが、限られた画面のなかにどう凝縮するか工夫を凝らしました。文学が好きな人にも、美術が好きな人にも、深く楽しめる——それが絵巻という表現の懐の深さです。

紫式部『源氏物語』——絵巻のもとになった物語

絵巻のもとになった『源氏物語』は、平安時代中期に、宮廷に仕えた女性・紫式部によって書かれた長編物語です。光源氏という一人の貴公子をめぐる恋と栄華、そして人生の無常を、五十四帖にもわたって描いた大作で、世界最古級の長編小説ともいわれます。この物語は当時から大変な人気を集め、貴族たちは競って書き写し、絵にして愛蔵しました。《源氏物語絵巻》は、そうした平安貴族の文学愛から生まれた、いわば”最高の挿絵”だったのです。物語のどの場面を、どう切り取って絵にするか——その選択にも、当時の人々の美意識が表れています。

美術史・美術検定での位置づけ

《源氏物語絵巻》は、大和絵と物語絵巻を代表する作品として、美術検定でも日本美術史の重要作品です。「大和絵」「引目鉤鼻」「吹抜屋台」といったキーワードは、あわせて押さえておきたいところ。日本美術における物語絵の原点として知っておくと、その後の絵巻の流れが見えてきます。

実物はどこで観られる?

《源氏物語絵巻》は、名古屋の徳川美術館や、東京の五島美術館などに分かれて所蔵されています。たいへん貴重な国宝で、劣化を防ぐため、公開は特別展などの限られた期間のみです。観に行く前に、各館の展示情報を確認しておくと確実です。実物の色の深さは、図版とはまるで違います。

観た記録を残すと、記憶はもっと鮮明になる

絵巻の名作は、実物の前に立つと、色の濃さや、右から左へ物語が流れていく感覚が、写真とはまるで違って迫ってきます。そうして心が動いた瞬間を記録に残しておくと、後から驚くほど鮮明に思い出せます。「いつ・どこで・どの作品を、どう感じたか」を残しておくと、学びも思い出も積み重なっていきます。

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