鳥獣戯画の見どころ|“日本最古の漫画”、動物たちの躍動する墨線

鳥獣戯画——“日本最古の漫画”と呼ばれる理由

相撲を取るうさぎとかえる、水遊びに興じるさるたち。国宝《鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)》、通称「鳥獣戯画」は、擬人化された動物たちが生き生きと遊びまわる、ユーモアあふれる絵巻です。色はいっさい使わず、墨の線だけ。それなのに、動物たちは今にも動き出しそうで、思わず頬がゆるみます。

筆者は毎日、趣味で鉛筆画を描いています。あわせて美術を学び直しているのですが、線だけで描くようになってから、鳥獣戯画の”線の力”に、以前よりずっと惹かれるようになりました。たった一本の線で、これほど動きや表情を出せるのか、と。この記事では、鳥獣戯画の魅力を、描く側の視点も交えて、実物を観る前の予習としてまとめます。

鳥獣戯画の基本情報

  • 時代:平安時代の末〜鎌倉時代
  • 構成:甲・乙・丙・丁の全4巻(とくに動物が遊ぶ「甲巻」が有名)
  • 技法:墨の線だけで描く「白描(はくびょう)」
  • 指定・所蔵:国宝/高山寺(こうざんじ、京都)
  • 作者:不詳(伝統的に鳥羽僧正の作とされるが、確証はない)

鳥獣戯画は、複数の巻からなり、それぞれ描かれた時代や作者が異なると考えられています。なかでも、うさぎ・かえる・さるが登場する甲巻は、そのユーモアと躍動感で、絵巻のなかでも別格の人気を誇ります。

描く視点で観る、鳥獣戯画の墨線

1. 色を使わず、墨線だけで動きを描く

鳥獣戯画のすごさは、なんといっても墨線だけで、これほど豊かな動きと表情を表していることです。飛び跳ねるかえる、駆けるうさぎ、笑うさる。勢いのある線が、そのまま動物たちの躍動になっています。絵を描く者として、迷いのない一本の線で生き物の動きをつかむ難しさは、痛いほど分かります。鳥獣戯画の線には、達人の余裕すら感じられます。

2. 擬人化された動物たち——ユーモアと風刺

動物たちは、まるで人間のように相撲を取り、弓を引き、法要のまねごとまでしています。この「動物に人間の営みをさせる」擬人化が、絵に親しみとおかしみを生んでいます。とりわけ、うさぎとかえるが取っ組み合う相撲の場面は、鳥獣戯画のなかでもとりわけ有名で、教科書などでもよく目にする名場面です。当時の人や社会を、動物にことよせて笑い飛ばした風刺だ、という見方もあります。堅苦しくない、こうした遊び心も、日本美術の大きな魅力です。

3. 省略の妙——描かないうまさ

背景は、ほとんど描かれていません。地面の線が少しあるだけで、あとは余白です。それでも、動物たちがどんな場所で何をしているか、ちゃんと伝わります。描き込みすぎず、要点だけを線で拾う——この「省略のうまさ」があるからこそ、絵に軽やかなスピード感が生まれるのです。

「日本最古の漫画」といわれるわけ

鳥獣戯画は、しばしば「日本最古の漫画」と呼ばれます。もちろん、現代の漫画のようなコマ割りやセリフの吹き出しがあるわけではありません。けれど、右から左へ場面が続いていく物語性、動きの表現、そしてなにより、思わず笑ってしまうユーモア。これらは確かに、後の漫画に通じるものです。何百年も前の日本人が、こんなに楽しい絵を描いていた——そう思うと、うれしくなります。

誰が描いたのか——謎の絵巻

これほど有名な絵巻ですが、じつは誰が描いたのか、はっきりとは分かっていません。古くから鳥羽僧正覚猷(とばそうじょう かくゆう)という僧の作と伝えられてきましたが、確かな証拠はなく、複数の絵師が長い年月をかけて描いたと考えられています。作者不詳という謎めいたところも、鳥獣戯画の魅力のひとつです。

美術史・美術検定での位置づけ

鳥獣戯画は、日本の絵巻物を代表する作品として、美術検定でも日本美術史の重要作品です。「白描」「擬人化」「高山寺」といったキーワードは、あわせて押さえておきたいところ。装飾的な絵巻とはまた違う、線だけで魅せる日本美術の一つの到達点として知っておくと、見方が広がります。

実物はどこで観られる?

鳥獣戯画は、京都・高山寺が所有する国宝で、現在は東京国立博物館と京都国立博物館に分けて寄託されています。貴重な作品のため、公開は特別展などの折々に限られます(鳥獣戯画の展覧会は、いつも大変な人気です)。観に行く前に、各館の展示情報を確認しておくと確実です。

観た記録を残すと、記憶はもっと鮮明になる

絵巻の名作は、実物の前に立つと、線の勢いや、右から左へ物語が流れていく感覚が、写真とはまるで違って迫ってきます。そうして心が動いた瞬間を記録に残しておくと、後から驚くほど鮮明に思い出せます。「いつ・どこで・どの作品を、どう感じたか」を残しておくと、学びも思い出も積み重なっていきます。

美術鑑賞ログ「アルテグ」は、観た作品をワンタップで記録でき、これから観たい作品のリストも作れるサービスです。展覧会に足を運ぶ方は、観た一枚を残していくと、学びと思い出が積み重なっていきます。アルテグを見てみる

教科書級の名作のための、美術鑑賞ログ

観た名作を、
ワンタップで記録する。

作者・制作年・時代・所蔵まで、選ぶだけで一緒に残ります。観たい作品の来日情報も受け取れます。

アルテグを見てみる

登録30秒・無料で始められます