円山応挙《雪松図屏風》の見どころ|“写生”を極めた、雪の松のリアル

《雪松図屏風》——“写生”を極めた、雪の松

雪をどっしりとかぶった老松が、金色に輝く空間のなかに、堂々と立っている。円山応挙(まるやま おうきょ)の国宝《雪松図屏風(ゆきまつずびょうぶ)》は、静けさと気品にあふれた、日本絵画の名品です。おもしろいのは、雪の白い部分に、じつは絵の具がほとんど塗られていないこと。応挙は、紙の白をそのまま雪に見立てて、あの雪景色を描き出しているのです。

筆者は毎日、趣味で鉛筆画を描いています。あわせて美術を学び直しているのですが、絵を描くようになってから、応挙の”よく見て描く”という姿勢に、深く共感するようになりました。この記事では、《雪松図屏風》の魅力を、応挙が大切にした「写生」という考え方を軸に、実物を観る前の予習としてまとめます。

円山応挙と《雪松図屏風》の基本情報

  • 作者:円山応挙(1733〜1795、江戸時代中期の京都)。円山派の祖
  • 形式:六曲一双(六つ折りの屏風が左右一対)
  • 技法:墨の濃淡を主に、紙の白や金を効果的に使う
  • 指定・所蔵:国宝/三井記念美術館(東京)
  • 主題:雪をかぶった松

応挙は、京都で活躍し、「写生」を重んじる新しい絵の流れをつくった画家です。彼が育てた円山派は、のちの四条派とともに、京都の画壇の主流となっていきました。

描く視点で観る、応挙の写生

1. 雪は“描かない”——紙の白を雪にする

《雪松図屏風》の最大の見どころは、雪の表現です。応挙は、雪を白い絵の具で描くのではなく、あえて何も塗らず、紙の白い地肌をそのまま雪として見せています。周りを墨で描くことで、塗っていない部分が、こんもりと積もった雪に見えてくる。「描かないことで描く」——この引き算の発想は、絵を描く者として、思わず唸ってしまう見事さです。

2. 墨の濃淡で、松の立体を出す

松の幹や葉は、濃い墨から淡い墨まで、濃淡を巧みに使い分けて描かれています。この墨のグラデーションだけで、松のごつごつとした立体感や、枝の奥行きが生き生きと表れます。色数を抑えているからこそ、かえって形の確かさが際立つ。よく観察した者にしか描けない、確かなリアリティがあります。

3. 写生と装飾の融合

応挙のすごさは、写生に基づくリアルさと、屏風としての装飾的な美しさを、みごとに両立させているところです。金を控えめに使った上品な背景に、写実的な松がすっと立つ。リアルなのに、飾りとしても美しい。地に足のついた観察と、洗練された美意識が、一つの画面で溶け合っています。

子犬から虎まで——とことん写生した画家

応挙の写生への情熱は、松だけに向けられたのではありません。彼は、身近な動物や植物を、実際にとことん観察して描きました。ころころとした子犬の愛らしさ、川の水の流れ、鳥の羽の一枚一枚。とりわけ応挙の描く子犬は、いまも「かわいい」と人気を集めるほど、生き生きとしています。よく見て、その”らしさ”をつかむ——地道な観察の積み重ねが、応挙の絵に確かな命を吹き込んでいるのです。ちなみに、足のない姿で幽霊を描く表現を広めたのも応挙とされ、写実を極めた人でありながら、想像の世界もまた自在に描きました。

写生主義——型から、観察へ

応挙が登場するまで、日本の絵は、昔からの手本(型)をなぞって描くのが一般的でした。応挙は、そこに「実物をよく観察して描く」という写生の考え方を持ち込みます。動物も植物も、実際にとことん見て、その姿をとらえる。型に頼るのではなく、自分の目で確かめる——この姿勢は、当時としては新しく、そして後の画家たちに大きな影響を与えました。学び直しをする筆者にとっても、「まず、よく見る」という応挙の態度は、大きな励ましになります。

美術史・美術検定での位置づけ

円山応挙は、江戸時代中期の京都を代表する画家として、美術検定でも日本美術史の重要人物です。「写生」「円山派」「円山四条派」といったキーワードは、あわせて押さえておきたいところ。伊藤若冲らと同じ時代の京都で、写生という別の道を切り拓いた画家として知っておくと、江戸絵画の豊かさが見えてきます。

実物はどこで観られる?

《雪松図屏風》は、東京の三井記念美術館が所蔵する国宝です。雪をテーマにした作品らしく、例年、年末年始(お正月)の時期に公開されるのが恒例となっています。貴重な国宝のため公開期間は限られるので、観に行く前に、三井記念美術館の展示情報を確認しておくと確実です。

観た記録を残すと、鑑賞はもっと深くなる

日本美術の名作は、実物の前に立つと、墨の濃淡や紙の白の効果が、写真とはまるで違って迫ってきます。そうして心が動いた瞬間を記録に残しておくと、後から驚くほど鮮明に思い出せます。「いつ・どこで・どの作品を、どう感じたか」を残しておくと、学びも思い出も積み重なっていきます。

美術鑑賞ログ「アルテグ」は、観た作品をワンタップで記録でき、これから観たい作品のリストも作れるサービスです。展覧会に足を運ぶ方は、観た一枚を残していくと、学びと思い出が積み重なっていきます。アルテグを見てみる

教科書級の名作のための、美術鑑賞ログ

観た名作を、
ワンタップで記録する。

作者・制作年・時代・所蔵まで、選ぶだけで一緒に残ります。観たい作品の来日情報も受け取れます。

アルテグを見てみる

登録30秒・無料で始められます