マティスとは|色彩を解き放った20世紀の巨匠、フォーヴィスムと切り絵

マティス——色彩を解き放った画家

まぶしいほど鮮やかな赤、澄んだ青、生き生きとした緑。アンリ・マティスの絵は、色そのものが喜びをうたっているかのようです。マティスは、20世紀のはじめ、それまでの「見たとおりの色で描く」という常識を打ち破り、色を自由に解き放った画家でした。ピカソが”形”の革命を起こしたなら、マティスは”色”の革命を起こした——そう言われるほどの巨匠です。

筆者は美術を学び直しているのですが、20世紀の美術は、それまでの常識を次々と壊していく面白さに満ちています。マティスの色の使い方も、その一つ。この記事では、マティスの魅力を、実物を観る前の予習としてまとめます。

マティスとは(基本情報)

  • 生没年:1869〜1954年(フランス)
  • 位置づけ:フォーヴィスム(野獣派)の中心人物
  • 特徴:大胆で純粋な色面、単純化された形、装飾的な画面
  • 代表作:《ダンス》《赤いアトリエ》、晩年の切り絵など

「フォーヴィスム」とは「野獣派」という意味です。1905年、マティスたちの、あまりに大胆で激しい色を使った絵を見た批評家が、驚いて「野獣(フォーヴ)のようだ」と評したことから、この名がつきました。当時としては、それほど衝撃的だったのです。

見どころ

1. 見たままより、感じたままの色

マティスの絵では、空が緑だったり、人の顔に赤や黄の筋が入っていたりします。これは、目に見えた色を写したのではなく、心に感じた印象や、画面全体の調和のために選ばれた色です。色は、現実を再現する道具ではなく、感情を表し、画面を美しく響かせるための”音”のようなもの。マティスは、色をそんなふうに自由に使いこなしました。

2. 単純化された形と、装飾の喜び

マティスは、形もまた大胆に単純化しました。細部を細かく描き込むのではなく、思い切って省き、のびやかな線と色面で対象をとらえます。壁紙や布の模様のような装飾的な要素も、画面に心地よいリズムを与えています。難しさではなく、見る人が素直に「美しい」「楽しい」と感じられること——それをマティスは大切にしました。

3. 切り絵——ハサミで描く

晩年、マティスは病のために、絵筆を握るのが難しくなります。それでも彼は、創作をやめませんでした。色を塗った紙をハサミで切り抜き、それを組み合わせて作品にする「切り絵(カット・アウト)」という新しい表現にたどり着いたのです。「ハサミで描く」とも言われるこの手法で、彼は最後まで、みずみずしい色と形の喜びを生み出し続けました。

最後の大仕事——ロザリオ礼拝堂

マティスが晩年、心血を注いだのが、南フランス・ヴァンスにある「ロザリオ礼拝堂」です。壁のタイル画から、光を通すステンドグラス、さらには司祭の衣装のデザインまで、マティスは礼拝堂のすべてを手がけました。白い壁に、青・緑・黄のステンドグラスを透かした光が降りそそぎ、時間や天気によって表情を変える。空間そのものが、一つの作品になっているのです。マティス自身、これを生涯の集大成と呼びました。一枚の絵に収まらず、空間まるごとを色と光で満たそうとした——その最後の挑戦に、色彩の画家マティスの到達点を見ることができます。

ピカソとマティス——20世紀の二大巨匠

マティスを語るとき、欠かせないのがパブロ・ピカソの存在です。二人は、20世紀美術を代表する二大巨匠として、互いを強く意識し、ライバルでありながら、深く認め合う友人でもありました。「色のマティス、形のピカソ」——それぞれ違う道から、美術の常識を塗り替えていった二人。並べて知ると、20世紀初頭の芸術のエネルギーが、いっそう鮮やかに見えてきます。

美術史・美術検定での位置づけ

マティスは、フォーヴィスムを代表する画家として、美術検定でも20世紀の西洋美術に登場します。「フォーヴィスム(野獣派)」「色彩」といったキーワードとあわせて押さえておきたいところ。色を感情の表現へと解き放った、その一歩の大きさを知ると、近代美術の流れが見えてきます。

実物を観るには

マティスの作品は、世界の主要な美術館に所蔵されています。日本でも、箱根のポーラ美術館などがマティス作品を所蔵しており、実物に出会える機会があります。展示替えで出ていないこともあるので、観に行く前に各館の情報を確認しておくと確実です。あの鮮烈な色は、実物でこそ本当の力を放ちます。

学びの記録を残すと、次につながる

実物を観るのはもちろん、「この画家について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。

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