ピカソはなぜ“下手に見える”のに、20世紀最大の画家なのか
顔の輪郭がゆがみ、目や鼻がばらばらの向きについている。ピカソの絵を初めて見た人は、「なんだか下手なのでは?」と戸惑うかもしれません。けれどパブロ・ピカソは、まぎれもなく20世紀最大の画家とされています。写実的に「うまく描く」ことができたはずの彼が、なぜあえて、ものの形を崩したのでしょうか。
筆者は美術を学び直しているのですが、いちばん面白いと感じるのは、既存の常識をひっくり返してしまう作品です。西洋美術の歴史は、いわば”革命”の連続。ピカソは、そのなかでも「ものの見方」そのものを壊した、決定的な革命家でした。この記事では、その挑戦を、実物を観る前の予習として読み解いてみます。
パブロ・ピカソとは(基本情報)
- 生没年:1881〜1973年(スペイン生まれ、主にフランスで活動)
- 画業:生涯にわたり画風を変え続け、膨大な数の作品を残した
- 創始した様式:キュビスム(立体派。画家ブラックとともに)
- 代表作:《アビニヨンの娘たち》《ゲルニカ》など
ピカソは、幼い頃から並外れた画才を示し、若くして写実的な絵を完璧に描けました。その彼が、あえて「見たとおりに描く」ことをやめ、まったく新しい絵のあり方を切り拓いていきます。
キュビスム——「見方」を壊した革命
1. 一つの視点をやめる——複数の角度を同時に
それまでの西洋絵画は、一つの決まった位置から見た風景を、遠近法で描くのが常識でした。ピカソはこの前提を壊します。正面から見た顔と、横から見た顔を、一つの画面に同時に描く。ものを様々な角度から見た面を、ばらして組み直す。これが「キュビスム」です。ゆがんで見えるのは、複数の視点が一枚に詰め込まれているからなのです。
2. なぜ“崩す”必要があったのか
私たちは本当に、ものを「一つの視点」だけで見ているでしょうか。実際には、目を動かし、頭のなかで複数の見え方を組み合わせて、対象を理解しています。ピカソは、その「見るという行為」そのものを、絵に写そうとしたともいえます。美しく整えることより、世界の見え方の真実に迫ること。そこにキュビスムの狙いがありました。
3. 変わり続けた画家
ピカソのすごさは、一つの様式にとどまらなかったことです。物憂げな「青の時代」、温かな「バラ色の時代」、そしてキュビスムへ。その後も生涯、作風を変え続けました。常に自分を壊し、新しい表現へ進んでいく——その飽くなき変化こそ、ピカソを特別な存在にしています。生涯に残した作品は、絵画や版画、彫刻、陶芸まで含めて数万点にのぼるといわれ、その創作エネルギーは桁外れでした。90歳を超えてもなお、新しい表現を求めて描き続けた画家です。
《ゲルニカ》——絵で戦争に抗議する
ピカソの代表作《ゲルニカ》は、スペイン内戦で無差別爆撃を受けた町ゲルニカの悲劇を描いた、巨大なモノクロの絵です。叫ぶ人、倒れる馬、嘆く母。キュビスムで培った表現が、戦争の混乱と苦しみを生々しく突きつけます。絵が、政治や暴力に対して声を上げられる——《ゲルニカ》は、そのことを世界に示した一枚です。描かれた当時から今日まで、戦争に反対するシンボルとして、世界中で知られ続けています。
西洋美術は「革命」の歴史——デュシャンと並んで
ピカソが「見方」を壊したのと同じ頃、マルセル・デュシャンは既製品の便器を作品として提示し、「芸術とは何か」という問いそのものを投げかけました。20世紀の初め、二人はそれぞれのやり方で、それまでの常識を根底から覆したのです。既存の枠組みを壊し、更新していく——西洋美術のダイナミックな歩みを知ると、ピカソの”崩し”の意味がよく見えてきます。
美術史・美術検定での位置づけ
ピカソは、20世紀美術を代表する画家として、美術検定でも西洋美術史の最重要人物の一人です。「キュビスム」「《ゲルニカ》」といったキーワードは必ず押さえておきたいところ。ルネサンス以来の遠近法を打ち破ったという意味で、美術史の大きな転換点に立つ画家です。
実物を観るには
《ゲルニカ》はマドリードのソフィア王妃芸術センターにあり、基本的には現地でしか観られません。ただ、日本でもこれまでピカソ展が何度も開かれ、ほかの作品に出会う機会はあります。まずは画集や展覧会で予習し、あの”崩れた画面”に込められた意味を味わってみてください。
学びの記録を残すと、次につながる
実物を観るのはもちろん、「この画家について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。
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