俵屋宗達とは|風神雷神図だけじゃない、琳派の祖・謎の町絵師の凄み

《風神雷神図》の作者、その正体は「謎の町絵師」

金地に躍動する《風神雷神図屏風》。この国宝を描いた俵屋宗達(たわらや そうたつ)は、日本美術史でとりわけ重要な画家です。ところが意外なことに、宗達がいつ生まれ、いつ亡くなったのか、正確なところは今も分かっていません。宮廷や幕府お抱えの絵師ではなく、京都の町なかで工房をかまえた「町絵師」だったからです。名前は誰もが知るのに、人物像は謎に包まれている——そこがまた、宗達の魅力をかき立てます。

筆者は日本史と美術検定を学び直しているのですが、日本美術を観ていて何より面白いと感じるのが、こうした画家の「系譜」と、日本ならではの装飾の美です。宗達は、後の尾形光琳や酒井抱一へと受け継がれる「琳派」の、すべての出発点に立つ人。この記事では、風神雷神図だけにとどまらない宗達の凄みを、実物を観る前の予習としてまとめます。

俵屋宗達とは(基本情報)

  • 活動時期:江戸時代初期・17世紀前半(生没年は不詳)
  • 肩書き:京都の町絵師。絵屋「俵屋」を主宰した
  • 画風:大胆な構図と余白、装飾性、「たらしこみ」の技法
  • 代表作:《風神雷神図屏風》《源氏物語関屋澪標図屏風》《蓮池水禽図》など

宗達は、扇絵などを手がける工房「俵屋」を営み、当時の京都で人気を集めた絵師だったと考えられています。宮廷絵所の狩野派のような「公式」の絵師ではなく、町の需要に応えるいわば民間の工房から、これほどの革新が生まれた——そこが宗達の面白いところです。

見どころ

1. たらしこみ——にじみを味方にする

宗達の代名詞ともいえる技法が「たらしこみ」です。先に塗った絵の具が乾ききらないうちに、別の色や墨を垂らし込み、自然なにじみやむらを生み出す。偶然できる模様を、そのまま美しさとして取り込むのです。狙って描く輪郭線とは正反対の、いわば「偶然を味方につける」発想。この技法は後の琳派の画家たちに受け継がれ、日本絵画の大切な表現の一つになりました。

2. 本阿弥光悦との書画協働——和歌と絵の競演

宗達を語るうえで欠かせないのが、当代一流の文化人・本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ)との協働です。光悦が和歌を書き、宗達がその下に金銀泥で草花や鳥を描く。《鶴下絵和歌巻》のような作品では、飛翔する鶴の群れの上に、流れるような書が重なります。文字と絵、文学と美術が一枚の紙の上で響き合う——古典和歌の教養と絵の美が溶け合った、たいへん贅沢な仕事です。絵だけを描くのではなく、言葉と組んで美をつくる。ここにも宗達の懐の深さがうかがえます。

3. 大胆な構図と、古典への眼差し

宗達は、《源氏物語》のような古典文学を主題に、大画面の屏風を描いてもいます。《源氏物語関屋澪標図屏風》では、物語の名場面を金地の上に大胆に構成しました。人物や風景を思い切って配置し、広い余白で受ける——この空間の取り方の巧みさは、《風神雷神図》の二神を左右の端に置いた大胆さにも通じます。古典を知り尽くしたうえで、それを新しい造形へと翻案する。宗達は、伝統と革新を一枚のなかで両立させた画家でした。

琳派の祖——「私淑」で受け継がれる出発点

宗達の装飾的な画風は、半世紀ほど後の尾形光琳を強く惹きつけました。光琳は宗達に直接教わったわけではなく、残された作品を手本に慕って学ぶ「私淑(ししゅく)」によって、その美を受け継ぎます。さらに時代が下って酒井抱一が光琳を慕う、というように、琳派は師弟ではなく私淑で時代を超えてつながった、珍しい系譜です。その大もとに立つのが宗達なのです。《風神雷神図屏風》の三者三様の描き継ぎを知ると、この系譜の面白さがいっそう深まります。

美術史・美術検定での位置づけ

俵屋宗達は、江戸初期の琳派を代表する画家として、美術検定でも日本美術史の重要人物です。「琳派」「たらしこみ」「本阿弥光悦」「《源氏物語関屋澪標図屏風》」といったキーワードは、あわせて押さえておきたいところ。狩野派のような画壇の主流とは別の場所から、日本美術に新しい装飾の美をもたらした存在として理解すると、江戸絵画の幅の広さが見えてきます。

実物はどこで観られる?

宗達の作品は、国宝・重要文化財が多く、常設で気軽に、というわけにはいきません。《風神雷神図屏風》は建仁寺(京都)が所蔵し京都国立博物館に寄託、《蓮池水禽図》は京都国立博物館、《源氏物語関屋澪標図屏風》は静嘉堂文庫美術館(東京)と、名品は各地に分かれています。また京都の養源院には、宗達が杉戸に描いた白象や唐獅子の絵が伝わります。いずれも公開は特別展や展示替えのタイミングが中心なので、観に行く前に各館の予定を確認しておくと確実です。

観た記録を残すと、記憶はもっと鮮明になる

日本美術の名作は、実物の前に立つと、金地の輝きや、たらしこみのにじみの繊細さが、図版とはまるで違って迫ってきます。そうして心が動いた瞬間を記録に残しておくと、後から驚くほど鮮明に思い出せます。とくに宗達から光琳、抱一へと続く琳派は、「いつどの作を観たか」を残していくと、系譜そのものが自分の鑑賞の物語になっていきます。

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