ゴッホの画風はなぜ変わったのか|オランダの暗い絵からアルルの色彩まで

ゴッホの絵はなぜ「変わった」のか——暗い絵から、あの色彩へ

ファン・ゴッホというと、多くの人が《ひまわり》や《星月夜》のような、燃えるような色彩とうねる筆づかいを思い浮かべます。ところが、ゴッホが画家として歩み始めた頃に描いていたのは、暗く重い、土のような色の絵でした。同じ画家とは思えないほどの変化——それはなぜ起きたのでしょうか。

筆者は美術検定の勉強をしながら、本で美術史を学び直しています。もともと歴史が好きなこともあり、「この画家は、いつ・どこで・どんな思いでこの絵を描いたのか」をたどっていくのが何より面白いと感じます。ゴッホの画風の変化は、まさにその面白さが詰まったお手本のような題材です。この記事では、彼の画風がどう変わっていったのかを、実物を観る前の予習として時代順に追ってみます。

ゴッホとはどんな画家か(基本情報)

  • 生没年:1853〜1890年(オランダ生まれ)
  • 画家として活動した期間:晩年のおよそ10年間だけ
  • 流派:ポスト印象主義(後期印象派)を代表する画家
  • 生涯の油彩:約860点ともいわれるが、生前に売れた絵はごくわずか
  • 代表作:《ジャガイモを食べる人々》《ひまわり》《夜のカフェテラス》《星月夜》など

驚くのは、これほど多くの名作を、たった10年ほどの間に描いたということ。しかも生前はほとんど評価されず、絵はほとんど売れませんでした。それでも描き続けたゴッホの画業を時代ごとに見ていくと、色がどんどん明るくなり、筆づかいがどんどん激しくなっていくのが分かります。

ゴッホの画風は、こう変わっていった

1. オランダ時代——暗い土の色で、働く人々を描く

画家を志した初期のゴッホは、故郷オランダで農民や織工など、地方で働く人々の姿を描きました。この頃の代表作が《ジャガイモを食べる人々》(1885年)です。ランプの下、ごつごつした手で質素な食事をとる一家を、茶色や黒に近い暗い色調で描いています。まだ明るい色はほとんど登場しません。ゴッホがこの時期に見つめていたのは、華やかさではなく、労働する人間の現実そのものでした。

2. パリ時代——印象派と浮世絵に出会い、色が明るくなる

1886年、ゴッホは画商をしていた弟テオを頼ってパリへ出ます。ここで人生が大きく動きます。当時のパリで花開いていた印象派・新印象派の明るい色彩と、点で色を置く技法に触れ、さらに日本の浮世絵に夢中になったのです。ゴッホは浮世絵を熱心に集め、模写までしています。この出会いを境に、彼のパレットは一気に明るくなり、色そのもので画面を組み立てるようになっていきました。学び直しをしていると、この「日本美術が西洋の巨匠に影響を与えた(ジャポニスム)」という交差点に出会うたび、少し誇らしい気持ちになります。

3. アルル時代——南仏の光で、色彩が爆発する

1888年、ゴッホは明るい光を求めて南フランスのアルルへ移ります。ここで彼の色彩は頂点を迎えます。《ひまわり》《夜のカフェテラス》《黄色い家》——強い日差しの下、黄色と青の鮮やかな対比が画面いっぱいに広がりました。一時は画家ゴーギャンとの共同生活も試みますが、二人の関係はやがて破綻し、ゴッホが自らの耳を切る事件へとつながっていきます。輝くような色彩と、心の不安定さが同居していた時期でした。

4. サン=レミからオーヴェルへ——うねる筆と最後の日々

心身を病んだゴッホは、サン=レミの療養施設に入ります。この地で描かれたのが、夜空が渦を巻く《星月夜》(1889年)です。糸杉や空がうねるように描かれ、色彩に加えて「筆の動き」そのものが感情を語り出します。最晩年はパリ近郊のオーヴェル=シュル=オワーズへ移り、精力的に描き続けますが、1890年、37歳でその生涯を閉じました。わずか10年で、暗い土の色から燃える色彩へ——これほど劇的に変化した画家は、そう多くありません。

美術史・美術検定での位置づけ

ゴッホはポスト印象主義(後期印象派)を代表する画家です。印象派が追い求めた「光」をさらに一歩進め、色彩と筆触で、目に見える風景の奥にある感情までも描こうとしました。美術検定でもゴッホは頻出で、セザンヌやゴーギャンとともに、印象派の「次」に来る画家として押さえておきたい存在です。「いつ・どこで・どんな心境で描いたか」という時代の流れをつかんでおくと、一枚一枚の絵の意味がぐっと立ち上がってきます。

2026年、ゴッホの実物を観られる機会

2026年は、日本でゴッホの実物に出会える貴重な年です。東京・上野の森美術館では「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」が2026年5月29日から8月12日まで開かれています。オランダのクレラー=ミュラー美術館の特別協力により、オランダ時代からパリ時代を経てアルルに至る、ゴッホの前半生をたどる構成です。この記事で見てきた「暗い絵から明るい色彩へ」という変化を、実物の流れで確かめられる絶好の機会といえます。会期は夏休みと重なり終盤は混雑が予想されるので、ゆっくり観たい方は平日や時間指定の活用がおすすめです。

観た記録を残すと、学びは積み重なる

教科書級の名作を実物で観た日のことは、後から振り返ると、自分だけの美術体験の記録になります。とくにゴッホのように「画業の流れ」で観る画家は、複数の作品を時系列で記録しておくと、学びがきれいにつながっていきます。

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