ドガとは|踊り子を描いた印象派、その“一瞬”と大胆な構図の秘密

印象派なのに、風景を描かなかった画家

舞台の上で片脚を上げる踊り子、稽古場で背中を丸めて靴紐を結ぶバレリーナ。エドガー・ドガといえば、なんといっても踊り子です。ドガは印象派の画家に数えられますが、モネやルノワールのように戸外に出て光あふれる風景を描くことは、ほとんどありませんでした。同じ印象派と呼ばれながら、なぜドガはこれほど違うのでしょうか。

筆者は美術検定の勉強をしながら、美術史を学び直しています。学んでいて面白いのは、同じ「流派」でくくられる画家でも、一人ひとり狙っているものがまるで違う、と分かる瞬間です。ドガは、印象派の一員でありながら、独自の道を歩んだ画家でした。この記事では、その個性を、実物を観る前の予習として読み解いてみます。

エドガー・ドガとは(基本情報)

  • 生没年:1834〜1917年(フランス・パリ出身)
  • 位置づけ:印象派展に参加。ただし自らは「写実主義者」を任じた
  • 好んだ主題:バレエの踊り子、稽古場、競馬、働く女性たち
  • 特徴:室内の人工光、動きの一瞬、大胆な構図、確かなデッサン

ドガは、印象派のグループ展に何度も参加した中心メンバーの一人でした。けれど本人は「印象派」と呼ばれることを好まず、自分は現実をありのままに描く「写実主義者」だと考えていました。事実、彼が追い求めたものは、仲間たちとは少し違う方向にありました。

見どころ

1. 光の風景より、動きの一瞬

モネたちが、戸外で移ろう自然の光を追いかけたのに対し、ドガが見つめたのは、劇場や稽古場という室内の世界でした。舞台の照明に浮かぶ踊り子、ふと気を抜いた稽古の合間、あくびをする一瞬。ドガは、人が動いているなかの、何気ない一瞬を切り取ることに情熱を注ぎました。優雅なポーズの見せ場だけでなく、疲れた表情や、だらしない姿勢までも描く。そこにこそ、生きた人間の真実がある、と考えたのです。

2. 大胆な構図——浮世絵に学ぶ

ドガの絵は、構図がとても大胆です。人物が画面の端で大きく見切れていたり、床や壁が画面の大半を占めていたり。まるで、たまたまその瞬間をのぞき見たかのような、意表を突く切り取り方をします。この斬新な構図には、当時ヨーロッパで大流行していた日本の浮世絵の影響があると言われます。北斎や広重が使った、思い切ったトリミングや斜めの構図。ドガはそこから、西洋の伝統的な構図とはまったく違う、新しい画面の作り方を学び取ったのです。

3. デッサンへのこだわり

ドガは、「線」の画家でもありました。若い頃から古典的なデッサンを徹底的に学び、生涯にわたって「まず正確に形をとらえること」を重んじました。踊り子の体のひねり、腕の角度、重心のかかり方。動きの一瞬を、ゆるぎない線で定着させる。その背後には、膨大な素描の積み重ねがあります。筆者は毎日鉛筆画を描いていますが、動いているものを正確な線でとらえることの難しさは、少し練習しただけでも痛感します。ドガのデッサン力の凄みは、実物の前に立つと、いっそう身にしみて分かるはずです。

晩年——パステルと彫刻へ

年をとるにつれ、ドガは視力が衰えていきました。すると彼は、油彩よりも扱いやすいパステルを多用するようになり、粉っぽい色彩で踊り子たちを描きます。さらには、目に頼らずとも手で形を確かめられる彫刻にも取り組み、《14歳の小さな踊り子》のような作品を残しました。見ることが難しくなってもなお、動きと形を追い続けた——その執念には、頭が下がります。

美術史・美術検定での位置づけ

ドガは、モネルノワールと並ぶ印象派の代表的画家として、美術検定でも西洋美術史の重要人物です。ただし「戸外の光を描いた画家たち」のなかで、「室内・動き・デッサン」を追ったドガは異色の存在。「印象派」とひとくくりにせず、一人ひとりの狙いの違いをつかむと、この時代の絵が立体的に見えてきます。あわせて、浮世絵が西洋美術に与えた影響(ジャポニスム)を知る入り口としても、ドガはうってつけです。

実物を観るには

ドガの作品は、パリのオルセー美術館をはじめ、世界の美術館に所蔵されています。日本の美術館にもドガ作品を所蔵する館があり、印象派をテーマにした展覧会では、踊り子の絵に出会えることも少なくありません。実物の前に立つと、パステルの繊細な色の重なりや、大胆な構図の緊張感が、印刷とはまるで違って迫ってきます。観に行く前に、各館や展覧会の情報を確認しておくと確実です。

学びの記録を残すと、次につながる

実物を観るのはもちろん、「この画家について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。

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