セザンヌはなぜ「近代絵画の父」なのか
テーブルに置かれた、数個のりんご。ポール・セザンヌは、そんな何でもない静物を、生涯にわたって描き続けました。派手さはありません。それなのに彼は「近代絵画の父」と呼ばれ、20世紀の美術を切り拓いた画家とされています。りんごを描くことの、いったい何がそんなに革命的だったのでしょうか。
筆者は美術検定の勉強をしながら、本で美術史を学び直しています。学んでいて面白いのは、一見地味な作品が、じつは美術の流れを大きく変えていた、と分かる瞬間です。セザンヌはまさにその代表格。この記事では、彼が変えたものを、実物を観る前の予習として読み解いてみます。
ポール・セザンヌとは(基本情報)
- 生没年:1839〜1906年(フランス・南仏エクス出身)
- 位置づけ:ポスト印象主義。「近代絵画の父」と呼ばれる
- 好んだ主題:りんごなどの静物、故郷の山(サント=ヴィクトワール山)、水浴の人々
- 有名な言葉:「自然を円筒・球・円錐で捉えよ」
セザンヌは、若い頃には印象派の画家たちと交流し、ともに展覧会にも参加しました。けれど、やがて彼は印象派とは違う方向へと進んでいきます。その「違い」こそが、美術の歴史を動かすことになります。
セザンヌが変えたもの
1. 光の一瞬より、確かな「形」を
印象派が追い求めたのは、刻一刻と移ろう「光の一瞬」でした。しかしセザンヌは、そうした移ろいの奥にある、対象の「確かな構造」を描こうとしました。うつろう印象ではなく、いつまでも変わらない形と存在感。同じ自然を見ても、何を描こうとするかで、絵はまったく別のものになるのです。
2. りんごで世界を捉え直す
セザンヌは、りんごを「面のかたまり」として捉え直しました。丸い果実を、光と色の小さな面を積み重ねるように描く。そうすることで、りんごはずっしりとした重みと存在感を帯びます。彼が「りんご一つでパリを驚かせたい」と語ったと伝わるのも、そこに新しい絵の原理を見ていたからです。よく見ると、テーブルや器がわずかに歪んでいることもあります。複数の見え方を一枚に取り込もうとした、その試行錯誤の跡です。
3. サント=ヴィクトワール山——色の面で山を建てる
セザンヌは、故郷にそびえるサント=ヴィクトワール山を、何度も何度も描きました。山や木々、大地を、色のついた面の集まりとして構築していく。まるで絵の具で山を「建てて」いくかのようです。自然を、目に映るままではなく、確かな造形として組み立て直す——その探求が、この連作に凝縮されています。
ピカソへ——キュビスムの源流
セザンヌの「ものを面のかたまりとして捉える」という考え方は、次の世代に決定的な影響を与えました。ピカソやブラックは、この発想をさらに推し進め、対象を様々な角度から見た面に分解して組み直す「キュビスム」を生み出します。つまり、20世紀美術の大きな扉を開いたのは、セザンヌのりんごだったのです。「近代絵画の父」と呼ばれるゆえんが、ここにあります。
認められなかった、孤独な探求
じつはセザンヌは、生きているあいだ、長く世に認められませんでした。作品はしばしば展覧会で落選し、批評家にも酷評されます。それでも彼は、故郷の南仏に戻り、来る日も来る日も、りんごや山と向き合い続けました。一枚を仕上げるのに、何度も色を置き直し、気の遠くなるような時間をかけたと伝わります。派手な成功とは無縁の、ひたすら地道な探求。その孤独な積み重ねが、晩年になってようやく若い画家たちに”発見”され、20世紀美術の出発点となったのです。誰にも認められなくても、信じた道を掘り続ける——学び直しを続ける者として、その姿勢には胸を打たれます。
美術史・美術検定での位置づけ
セザンヌは、ゴッホやゴーギャンと並ぶポスト印象主義の代表的画家として、美術検定でも西洋美術史の最重要人物の一人です。印象派から20世紀美術(キュビスム)への「橋渡し」をした存在として押さえておくと、近代絵画の流れがすっきり見えてきます。
実物を観るには
セザンヌの作品は、パリのオルセー美術館をはじめ、世界の美術館に所蔵されています。日本でも、アーティゾン美術館などがセザンヌ作品を所蔵しており、実物に出会える機会があります。展示替えで出ていないこともあるので、観に行く前に各館の情報を確認しておくと確実です。地味に見えるあの静物が、実物ではどれほどの存在感を放つか、ぜひ確かめてみてください。
学びの記録を残すと、次につながる
実物を観るのはもちろん、「この画家について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。
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