ミケランジェロ——彫刻家が描いた、天井の宇宙
大理石から掘り出された、完璧な肉体の若者。天井いっぱいに広がる、神と人間の壮大な物語。ミケランジェロ・ブオナローティは、彫刻でも絵画でも人類史に残る傑作を生み出した、盛期ルネサンスの巨匠です。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロと並ぶ「三大巨匠」の一人にして、ひときわ力強く、劇的な作風で知られます。
筆者は美術を学び直しているのですが、面白いのは、一人の人間が、彫刻と絵画という異なる表現を、ともに極めてしまう凄みです。しかもミケランジェロ自身は、生涯「自分は彫刻家だ」と考えていました。この記事では、その偉業を、実物を観る前の予習としてまとめます。
ミケランジェロとは(基本情報)
- 生没年:1475〜1564年(イタリア・フィレンツェ)
- 肩書き:彫刻家・画家・建築家・詩人
- 代表作:彫刻《ダビデ》《ピエタ》、システィーナ礼拝堂の天井画《アダムの創造》など
- 位置づけ:盛期ルネサンスの「三大巨匠」の一人
ミケランジェロは、ダ・ヴィンチやラファエロと同じ時代のイタリアで活躍しました。教皇や大富豪メディチ家に重んじられ、次々と大仕事を任された、時代の中心にいた芸術家です。
彫刻——石の中から掘り出す
ミケランジェロは、自らを何よりも「彫刻家」だと考えていました。代表作《ダビデ》は、高さ5メートルを超える大理石像。巨人ゴリアテと戦う直前の、緊張をみなぎらせた青年の姿を、完璧な男性美として表しています。彼には、「石の中には、すでに像が眠っている。自分はそれを掘り出すだけだ」という言葉が伝わります。硬い大理石から、生きているような肉体を生み出す——その神業に、人々は驚嘆しました。
システィーナ礼拝堂——天井画の偉業
そんな彫刻家が、教皇の命令で挑んだのが、ヴァチカンにあるシスティーナ礼拝堂の、巨大な天井画でした。ミケランジェロは、見上げるほど高い天井に、天地創造から始まる壮大な物語を、約4年かけてほぼ一人で描き上げます。なかでも、神とアダムの指が触れ合おうとする《アダムの創造》は、あまりにも有名です。彫刻で鍛えた力強い人体表現が、天井いっぱいに躍動しています。
《最後の審判》——壁を覆う圧巻
天井画の完成から20年以上を経て、ミケランジェロは同じ礼拝堂の祭壇の壁に、《最後の審判》を描きます。世界の終わりに、人々が救われ、あるいは裁かれる——その劇的な瞬間を、無数の人物のうねりで表した大作です。若き日の理想美とはまた違う、老いた巨匠の、より厳しく激しい世界がそこにあります。
苦悩する巨匠——その激しさ
ミケランジェロは、その作品と同じく、激しく苦悩の多い人生を送りました。妥協を許さない完璧主義で、ときに依頼主や周囲と衝突しながら、巨大な仕事に一人で立ち向かっていきます。システィーナ礼拝堂の天井画では、来る日も来る日も高い足場の上で天を仰ぎ、絵の具を浴びながら描き続け、体を痛めたとも伝わります。その圧倒的な迫力と厳しさは、後世「テリビリタ(恐るべきもの)」とも呼ばれました。89歳という、当時としては驚くほどの長寿を全うするまで、彼は制作をやめませんでした。作品の力強さの奥には、生涯を捧げて美と格闘した、一人の人間の苦悩があるのです。
彫刻の視点でつながる——運慶やロダンとも
ミケランジェロの絵が、あれほど力強い肉体感にあふれているのは、彼が根っからの彫刻家だったからです。人体を、立体として深く理解していた。この「彫刻で命を表す」という挑戦は、じつは時代も文化も超えて響き合います。日本で力強い仏像を彫った運慶、近代フランスで《考える人》を生んだロダン。表すものは違っても、彫刻に生命を宿そうとした点で、彼らは同じ地平に立っています。東西の彫刻を思い浮かべながら観ると、面白さが広がります。
美術史・美術検定での位置づけ
ミケランジェロは、盛期ルネサンスを代表する巨匠として、美術検定でも西洋美術史の最重要人物です。ダ・ヴィンチ、ラファエロとあわせた「三大巨匠」、そして《ダビデ》《アダムの創造》といった代表作は、必ず押さえておきたいところ。ルネサンスという時代の頂点を体現する存在です。
実物を観るには
《ダビデ》はフィレンツェのアカデミア美術館、システィーナ礼拝堂の天井画はヴァチカンにあり、いずれも現地でしか観られません。日本に来ることはまずないため、まずは画集や展覧会で予習し、いつか本場で、あの天井を見上げる——そんな目標にしておくのも素敵です。
学びの記録を残すと、次につながる
実物を観るのはもちろん、「この巨匠について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。
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