ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》の見どころ|革命を描いた、ロマン主義の傑作

《民衆を導く自由の女神》——革命を描いた一枚

硝煙の立ちこめる戦いのただ中、一人の女性が三色旗を高々と掲げ、銃を手に、民衆を率いて前へ進んでいく。ウジェーヌ・ドラクロワの《民衆を導く自由の女神》は、革命の熱気をそのまま画面に焼きつけたような、激しくも高揚感あふれる名画です。フランスを象徴する絵として、切手やお札にも使われてきました。

筆者は美術検定の勉強をしながら、美術史を学び直しています。もともと歴史が好きなこともあり、「一枚の絵が、時代の出来事や人々の思いをどう映し出しているか」を知るのが、何より面白いと感じます。この絵は、まさにその宝庫。この記事では、《民衆を導く自由の女神》の魅力を、その歴史的な背景もあわせて、実物を観る前の予習としてまとめます。

ドラクロワと《民衆を導く自由の女神》の基本情報

  • 作者:ウジェーヌ・ドラクロワ(1798〜1863、フランス)。ロマン主義を代表する画家
  • 制作:1830年
  • 主題:1830年にフランスで起きた革命(七月革命)
  • 所蔵:ルーヴル美術館(パリ)

ドラクロワは、激しい感情や動き、鮮やかな色彩を重んじた「ロマン主義」の旗手です。歴史や文学の劇的な場面を、情熱的な筆づかいで描き出しました。

見どころ

1. 三色旗を掲げる「自由」の女神

画面の中央、旗を掲げて立つ女性は、実在の人物ではありません。彼女は「自由」という理念を、人の姿で表した”寓意(ぐうい)”の像です。フランスを象徴する女性「マリアンヌ」とも重ねられます。実在の人間ではないからこそ、この女性は時代を超えて「自由」そのものの象徴となり、多くの人の心を奮い立たせてきました。

2. あらゆる階層の民衆

女神のまわりに目を向けると、さまざまな人々が描かれています。シルクハットをかぶった裕福そうな市民、拳銃を握った少年、労働者風の男。身分も年齢も違う人々が、同じ理想のもとに肩を並べて進んでいます。革命が、一部の人だけでなく、社会のあらゆる層を巻き込んだものだったことが、この群像から伝わってきます。

3. 動きと色彩——ロマン主義の情熱

画面全体に、前へ前へと進む激しい動きがみなぎっています。旗の赤・白・青が鮮やかに映え、足元には倒れた人々、背景には煙とパリの街。整然と静かな絵ではなく、混乱と熱気をそのまま描く——この激情こそ、ロマン主義の真骨頂です。観る者の胸に、直接うったえかけてきます。

これは何の革命か——七月革命

ひとつ、よくある誤解を解いておきましょう。この絵が描いているのは、有名な「フランス革命」(1789年)ではなく、その後の1830年に起きた「七月革命」です。当時の国王の政治に反発した市民たちが立ち上がり、わずか数日で王を退位させました。ドラクロワは、この同時代の出来事に強く心を動かされ、すぐさま筆を執ったのです。今まさに起きている歴史を、絵にして残す——その熱量が、絵の迫力を生んでいます。

この絵が歩んだ、その後

じつは《民衆を導く自由の女神》は、描かれたあと、すぐに堂々と飾られたわけではありませんでした。革命をたたえるその内容が、時の政府にとっては危険なほど扇動的に映ったからです。国に買い上げられたものの、長らく人目に触れない時期もあったといわれます。それでも、この絵が放つ「自由」への渇望は消えることなく、やがてフランスを象徴する一枚として、世界じゅうに知られていきました。絵が持つ力を、権力者がむしろ恐れた——そのことじたいが、この作品の凄みを物語っています。

ロマン主義とは——感情と動きの絵画

ドラクロワが属した「ロマン主義」は、それ以前に主流だった「新古典主義」への反発から生まれました。新古典主義が、古代を手本とした端正で理性的な美を求めたのに対し、ロマン主義は、人間の激しい感情や、劇的な物語、動きと色彩を重んじました。理性より情熱を——この対比を知っておくと、《民衆を導く自由の女神》のあふれるようなエネルギーが、いっそう腑に落ちます。

美術史・美術検定での位置づけ

ドラクロワは、19世紀フランスのロマン主義を代表する画家として、美術検定でも西洋美術史の重要人物です。「ロマン主義」「新古典主義との対比」といったキーワードとあわせて、《民衆を導く自由の女神》を押さえておくとよいでしょう。絵が、時代や社会と深く結びついていることを教えてくれる一枚です。

実物を観るには

《民衆を導く自由の女神》はパリのルーヴル美術館にあり、基本的には現地で観るものです。日本に来ることはめったにないため、まずは画集や展覧会で予習し、いつかルーヴルで、あの旗を掲げる女神の前に立つ——そんな目標にしておくのも素敵です。

学びの記録を残すと、次につながる

実物を観るのはもちろん、「この絵について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。

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