《北野天神縁起絵巻 承久本》の見どころ|実物を観て分かった迫力と菅原道真の物語

国宝《北野天神縁起絵巻 承久本》を、実際に観てきました

《北野天神縁起絵巻 承久本》は、菅原道真の生涯と、その死後に「天神さま」として祀られるまでを描いた国宝の絵巻です。筆者は先日、京都国立博物館の特別展「北野天神」で、この承久本の実物を観てきました。

日本史と美術検定を学び直すなかで、「菅原道真」「北野天満宮」「北野天神縁起絵巻」という言葉には何度も出会ってきました。けれど教科書の小さな図版で見るのと、実物を前にするのとでは、迫力がまったく違いました。この記事では、基本情報に加えて、実際に観て初めて分かったことを中心にお伝えします。

《北野天神縁起絵巻 承久本》とは

  • 制作:鎌倉時代・1219年(承久元年)頃 = だから「承久本」
  • 所蔵:北野天満宮(京都)
  • 指定:国宝
  • 大きさ:高さ約52cm = 現存する絵巻のなかでも最大級
  • 筆者(伝承):伝・藤原信実(似絵の名手とされる貴族の画家)

北野天神縁起絵巻には複数の版がありますが、なかでも承久本は最も古く、すべての「もと」とされる一本。会場で実物の大きさを前にすると、「絵巻」という言葉から想像する小ぶりなイメージが一気に覆されます。

菅原道真の物語——学者から「天神さま」へ

菅原道真(845〜903)は、平安時代の学者であり政治家。右大臣まで昇りつめますが、藤原時平らの讒言(ざんげん)によって大宰府へ左遷され、903年にその地で亡くなります。

その後、都では落雷をはじめとする天変地異が相次ぎ、人々はこれを道真の祟りと恐れました。やがて道真は災いをもたらす存在から、北野天満宮に祀られる神「天神」へと変わり、いまでは学問の神様として親しまれています。承久本は、この「学者が神になるまで」の壮大な物語を絵にしたものです。

実際に観て分かった見どころ

1. 雷神となった道真の落雷場面(承久本の白眉)

もっとも心が動いたのが、雷神となった道真が御所に落雷を放つ場面でした。黒煙の描き方がとてもリアルで、雷がまさに人に当たるように描かれているのが独特です。そして雷神の表情——本来はおそろしいはずなのに、目の見開き方がどこか愛嬌があって、しばらく見入ってしまいました。会場でもこの場面はとくに混雑していて、人の流れがなかなか進まないほどでした。

2. 藤原時平と、耳から出てくる青龍

落雷の場面で、ただ一人、刀を手に雷神へ立ち向かうのが藤原時平です。道真を左遷へ追い込んだ張本人なのに、一応は立ち向かうのか——と、思わず引き込まれました。さらに時平の耳からは青龍が出てきます。これは道真の祟りを鎮めるお経を、時平に聞こえないようにして命を奪う、という独特な復讐の描写。あまりの発想に、筆者は思わず笑ってしまいました。

3. 絵巻は「当時の動画」——右から左へ流れる時間

観ていて強く感じたのは、絵巻はいわば当時の動画だ、ということ。右から左へ目を移していくと、場面が次から次へと頭に入ってきて、物語が時間とともに動き出します。ちなみに承久本が大画面なのは、本来は横長に描く紙を縦向きに使い、それをいくつもつなぎ合わせているから、と解説で知りました。

4. 4つの版で「筆づかい」を見比べる

本展では承久本・弘安本・光信本・光起本の4つの版が並び、描き方の違いを見比べられました。承久本は力強さを感じる筆づかい。対して土佐派が描いた光信本・光起本は、繊細で「静けさ」をたたえていて、同じ物語でもまったく印象が変わります。この見比べは、実物が一堂に会する展覧会ならではの体験でした。

絵巻だけじゃない——束帯天神像や虎図絵馬も

展示は絵巻だけではありません。木造の《束帯天神像》は、一本の木から像を彫り出したとされる技術が見事でした(足の表現がどこか丸っこく、思わずじっと見てしまいました)。北野天満宮の《虎図絵馬》は、幅数メートルの大きな板絵が並び、その迫力に圧倒されます。さらに、道真ゆかりとされる鬼切丸(髭切)などの刀剣も展示され、刃先の方向から見ると、とても鋭利に研がれた美しい弧を描いていました。絵巻に集中しすぎて見落としがちですが、こうした名品もぜひあわせて観たいところです。

千年、受け継がれてきたということ

承久本には、長い年月による欠損や、修理の跡があります。それを目の当たりにして思ったのは、約1,000年ものあいだ、焼失することもなく大切に保存されてきたからこそ、いま自分はこの絵と出会えている、ということ。後世のためにも、こうした作品を守り伝えていくことの大切さを、しみじみ感じました。

日本美術の絵巻は、十二単や衣冠束帯といった平安の風俗がそのまま描かれていて、日本史や平安期の文学が好きな人にはたまらない面白さがあります。学び直しのなかで出会った知識が、実物の前で一気につながる——その瞬間が、何よりの収穫でした。

観た記録を残すと、記憶はもっと鮮明になる

実際に観てみて実感したのは、感じたことや印象に残った場面を分かりやすくログに残しておくと、後から驚くほど鮮明に思い出せる、ということです。教科書級の名作と出会った日ほど、その記録は自分だけの財産になります。

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