ムンク《叫び》の見どころ|“不安”を形にした、誰もが知る叫び

《叫び》——誰もが知る、あの不安の表情

血のように赤い空を背に、橋の上で顔に手を当て、口を大きく開けた人物。エドヴァルド・ムンクの《叫び》は、世界でもっとも有名な絵の一つです。パロディやスタンプにもなり、見たことのない人はいないでしょう。けれど、この絵がなぜ描かれ、何を叫んでいるのかを、あらためて考えてみると、意外と奥が深いのです。

筆者は美術を学び直しているのですが、心を打たれるのは、目に見える美しさだけでなく、人間の”内面”に踏み込んだ絵です。《叫び》は、まさに近代人の不安そのものを描いた一枚。この記事では、その魅力を、実物を観る前の予習として読み解いてみます。

ムンクと《叫び》の基本情報

  • 作者:エドヴァルド・ムンク(1863〜1944、ノルウェー)
  • 制作:1893年ごろ(油彩・パステル・版画など複数のバージョンがある)
  • 所蔵:オスロの美術館(ノルウェー国立美術館、ムンク美術館)
  • 画風:内面の感情を強い色と線で表す「表現主義」の先駆

ムンクは、幼い頃に母や姉を病で亡くすなど、死や不安と隣り合わせの人生を送りました。その経験が、彼の絵に一貫して流れる、孤独や不安のテーマに深く関わっているといわれます。

見どころ

1. 叫んでいるのは、誰か

意外に思われるかもしれませんが、じつは中央の人物は「叫んでいる」のではない、という見方があります。よく見ると、人物は両手で耳をふさいでいるようにも見えます。つまり、この人物は、どこかから聞こえてくる大きな叫びに耐え、それに怯えているのだ、と。叫びの主は、人ではなく、自然そのものかもしれない——そう思うと、この絵の不気味さが増してきます。

2. 血のような空と、渦巻く線

背景の空は、燃えるような赤と黄色に染まり、うねうねと波打っています。橋や水辺の線も、すべてが渦を巻くように歪んでいます。現実の風景を正確に写すのではなく、心のなかの不安をそのまま画面に映し出したような表現です。この揺れ動く線とどぎつい色が、見る者の心をざわつかせます。

3. 内面を描く——表現主義

《叫び》がめざしたのは、目に見えるものを美しく描くことではありません。目には見えない「心の状態」を、色と形で表すこと。こうした試みは「表現主義」と呼ばれ、20世紀の美術に大きな流れをつくりました。感情そのものが絵の主役になる——その先駆けが、ムンクだったのです。

ムンク自身の体験——空が叫んだ日

ムンクは、この絵のもとになった体験を書き残しています。夕暮れ、友人と歩いていたとき、空が突然、血のような赤に染まった。ムンクは激しい不安に襲われ、立ち尽くした——そのとき「自然を貫く大きな叫び」を感じた、というのです。《叫び》は、その個人的な、けれど誰の心にもひそむ不安の瞬間を、絵にしたものなのです。

なぜ現代人の心を打つのか

《叫び》がこれほど広く知られ、愛され続けるのは、そこに描かれた不安が、時代や国を超えて、誰の心にもあるものだからでしょう。孤独、漠然とした恐れ、言葉にならないざわめき。100年以上前のノルウェーの絵が、いまを生きる私たちの気持ちを、これほど言い当ててくる。名画が”時代を超える”とは、こういうことなのだと実感させられます。

何度も盗まれた絵

《叫び》は、その圧倒的な知名度ゆえに、過去に何度も盗難に遭ったことでも知られます。白昼、美術館から持ち去られ、世界的なニュースになったこともありました。幸いいずれも取り戻されていますが、それだけ多くの人を強く引きつける”魔力”を持った絵だということでしょう。ちなみに《叫び》には、油彩やパステル、版画など複数のバージョンがあり、ムンク自身がこの主題に繰り返し取り組んだことがうかがえます。それほどまでに、彼にとって切実なテーマだったのです。

美術史・美術検定での位置づけ

ムンクは、表現主義の先駆者として、美術検定でも西洋美術史に登場します。「表現主義」「近代人の不安」といったキーワードとあわせて、《叫び》を押さえておくとよいでしょう。印象派が”光”を描いた一方で、ムンクは”心”を描いた——その対比で捉えると、近代美術の広がりが見えてきます。

実物を観るには

《叫び》はノルウェー・オスロの美術館にあり、基本的には現地でしか観られません。ただ、日本でもこれまでムンク展が開かれ、《叫び》をはじめ多くの作品に出会う機会がありました。まずは画集や展覧会で予習し、いつかあの渦巻く空の前に立つ——そんな目標にしておくのも素敵です。

観た記録を残すと、鑑賞はもっと深くなる

名画は、実物の前に立つと、色の強さや筆の勢いが、写真とはまるで違って迫ってきます。そうして心が動いた瞬間を記録に残しておくと、後から驚くほど鮮明に思い出せます。「いつ・どこで・どの作品を、どう感じたか」を残しておくと、学びも思い出も積み重なっていきます。

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