クリムト《接吻》の見どころ|黄金の装飾と、日本美術との意外なつながり

黄金にきらめく《接吻》——その装飾は、どこから来たのか

金色の光に包まれて抱き合う、一組の男女。グスタフ・クリムトの《接吻(せっぷん)》は、世界でもっとも有名な”愛の絵”のひとつです。画面いっぱいに散りばめられた黄金の装飾は、うっとりするほど華やかで、一度見たら忘れられません。けれど、この絢爛な金と模様は、いったいどこから来たのでしょうか。

筆者は美術を学び直しているのですが、学んでいて面白いのは、遠く離れた文化どうしが、思わぬところでつながっている瞬間を見つけたときです。じつはクリムトのこの装飾には、日本美術の影が差しているといわれます。この記事では、《接吻》の魅力を、その”日本とのつながり”もあわせて、実物を観る前の予習としてまとめます。

クリムトと《接吻》の基本情報

  • 作者:グスタフ・クリムト(1862〜1918、オーストリア・ウィーン)
  • 制作:1907〜1908年ごろ(クリムトの「黄金様式」の頂点)
  • 技法:油彩に金箔を用いた装飾的な画面
  • 所蔵:ベルヴェデーレ宮殿(オーストリア・ギャラリー、ウィーン)

クリムトは、19世紀末から20世紀初頭のウィーンで活躍し、旧来の芸術に反旗をひるがえした「ウィーン分離派(セセッション)」の中心人物でした。《接吻》は、彼が金箔をふんだんに使った「黄金様式」の代表作。父が金銀細工師だったことも、金への親しみに影響したといわれます。

見どころ

1. ふんだんな金箔——黄金様式

《接吻》の背景も、二人をくるむ衣も、まばゆい金で覆われています。金箔は光を反射し、絵全体を宗教画の後光のように神々しく見せます。抱き合う二人が、金色の繭のなかで永遠の一瞬に包まれている——その恍惚とした美しさが、この絵の核心です。

2. 対照的な文様——男と女

よく見ると、男性の衣には四角い幾何学模様が、女性の衣には花や円のやわらかな模様が描かれ、対照をなしています。硬さと柔らかさ、直線と曲線。二人はひとつに溶け合いながらも、模様によってそれぞれの個性が示されているのです。装飾が、ただの飾りではなく”意味”を担っているのがクリムトの巧みさです。

3. 平面と写実の融合

金や模様の部分は平らで装飾的なのに、顔や手、足だけは驚くほど写実的に描かれています。この「平面」と「写実」の大胆な組み合わせが、《接吻》に独特の緊張感と生々しさを与えています。夢のような装飾のなかに、確かな人間の体温が息づいているのです。

日本美術との意外なつながり

クリムトの黄金と装飾には、日本美術の影響があるといわれます(諸説あります)。19世紀後半のヨーロッパでは、浮世絵をはじめとする日本美術が大流行し(ジャポニスム)、クリムトも日本の美術品を集めていました。とりわけ、金地に大胆な装飾を施す琳派(俵屋宗達や尾形光琳ら)の屏風絵とは、平面的な金の使い方に通じるものがあります。日本の金屏風と、ウィーンの黄金の絵。遠く離れた二つが響き合っていると思うと、《接吻》がぐっと近く感じられます。

世紀末ウィーンと分離派

《接吻》が生まれた世紀末のウィーンは、爛熟した文化と、時代の終わりの気配が入りまじる、独特の空気に満ちていました。クリムトたち分離派は「時代にはその芸術を、芸術にはその自由を」を掲げ、古い権威から芸術を解き放とうとしました。華やかさの奥にただよう、どこか退廃的で官能的な雰囲気は、この時代ならではのものです。

クリムトはこの《接吻》のほかにも、《ユディト》や、金をまとった肖像画《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像》など、黄金を効果的に使った作品を次々に生み出しました。《接吻》は、そうした「黄金様式」の集大成であり、クリムト芸術の到達点とされています。まばゆい金は、単なる華やかさではなく、愛や生命、そして時代の気分そのものを映す器だったのです。

美術史・美術検定での位置づけ

クリムトは、世紀末ウィーンと象徴主義を代表する画家として、美術検定でも西洋美術史に登場します。「ウィーン分離派」「黄金様式」といったキーワードとあわせて、《接吻》を押さえておくとよいでしょう。ジャポニスムという流れのなかに置いてみると、北斎やモネと同じ”日本とつながる西洋美術”の一例として見えてきます。

実物を観るには

《接吻》はウィーンのベルヴェデーレ宮殿にあり、基本的には現地でしか観られません。ただ、日本でもこれまでクリムト展が開かれ、ほかの作品に出会える機会はあります。まずは画集や展覧会で予習し、いつか本場ウィーンで、あの黄金の輝きの前に立つ——そんな目標にしておくのも素敵です。

学びの記録を残すと、次につながる

実物を観るのはもちろん、「この画家について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。

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