歌川国芳とは|奇想と反骨とユーモア、猫を愛した浮世絵師

歌川国芳——奇想と反骨の浮世絵師

豪傑が大蛇と格闘する迫力の武者絵。人間のように酒盛りをする猫たち。そして、画面を突き破らんばかりの巨大な骸骨。歌川国芳(うたがわ くによし)の浮世絵は、とにかく自由で、大胆で、そしてどこか楽しい。まじめで端正な浮世絵とはひと味違う、奇想とユーモアと反骨精神にあふれた絵師です。

筆者は毎日、趣味で鉛筆画を描いています。あわせて美術を学び直しているのですが、国芳の絵を見ると、その発想の自由さと構図の大胆さに、いつも笑ってしまいます。北斎や広重の風景、写楽や歌麿の役者・美人とはまた違う、浮世絵の”遊び”の顔。この記事では、国芳の魅力を、実物を観る前の予習としてまとめます。

歌川国芳とは(基本情報)

  • 生没年:1797〜1861年(江戸時代後期)
  • 流派:歌川派の絵師
  • 幅広い画題:武者絵、猫の絵、風刺画、妖怪画、美人画など
  • 作風:大胆でダイナミックな構図、迫力、ユーモア、反骨精神

国芳は、勇壮な武者絵で人気を得て、「武者絵の国芳」と呼ばれました。けれど、その画題は一つにとどまりません。まじめな絵も、笑える絵も、不気味な絵も、なんでもござれ。その振れ幅の大きさこそが、国芳の魅力です。

見どころ

1. 武者絵——ダイナミックな迫力

国芳の出世作は、中国の物語『水滸伝』の豪傑たちを描いた武者絵でした。刺青をした荒くれ者が、大蛇や怪物と力いっぱい格闘する。その筋肉の躍動と、画面からはみ出さんばかりの迫力に、当時の江戸っ子は熱狂しました。動きのある構図の巧みさは、国芳の大きな武器です。

2. 猫を愛した絵師——擬人化と寄せ絵

国芳は、大の猫好きでも知られます。いつもふところに猫を入れて絵を描いていた、という逸話が残るほど。その愛情は作品にもあふれ、猫が人間のように振る舞う戯画や、たくさんの猫を寄せ集めて一つの文字や顔の形にする「寄せ絵」など、ユーモラスな猫の絵をたくさん残しました。猫好きにはたまらない絵師です。

3. 風刺と反骨——検閲をかわす機知

国芳が生きたのは、幕府が「天保の改革」で、ぜいたくや娯楽を厳しく取り締まった時代でした。役者や遊女の絵も禁じられます。そんななか、国芳は、権力者を動物や落書きに見立ててこっそり皮肉る、機知に富んだ風刺画で応じました。まともに禁じられたものを、頭を使ってかわし、笑い飛ばす——この反骨とユーモアが、庶民の喝采を浴びたのです。

妖怪・骸骨——奇想の想像力

国芳のもう一つの顔が、妖怪や怪奇の絵です。とくに有名なのが、《相馬の古内裏(そうまのふるだいり)》。荒れ果てた屋敷に、画面いっぱいの巨大な骸骨がぬっと現れる、忘れられない一枚です。西洋の解剖学的な知識も取り入れたともいわれ、その大胆な構図とスケールは、現代の私たちが見ても、ぞくりとするほどの迫力があります。

浮世絵の“遊び”の顔——他の絵師との違い

浮世絵といえば、北斎や広重の美しい風景、写楽や歌麿の役者絵・美人画が思い浮かびます。それらが「様式美」や「叙情」を極めたのに対し、国芳が突き詰めたのは「自由な発想」と「遊び心」でした。同じ浮世絵でも、こんなに幅がある。国芳を知ると、浮世絵という世界のふところの深さに、あらためて驚かされます。

西洋を取り入れ、次代へ

国芳は、新しいものを取り入れることにも貪欲でした。当時わずかに入ってきていた西洋の絵から、陰影のつけ方や遠近法を学び、自分の浮世絵に生かしています。伝統にあぐらをかかず、面白いものはどんどん吸収する——その柔軟さも、国芳の魅力です。また、彼の工房からは、月岡芳年(つきおか よしとし)をはじめ、幕末から明治にかけて活躍する絵師たちが育ちました。奇想と反骨の精神は弟子たちへと受け継がれ、浮世絵が近代へと移り変わっていく、橋渡しの役割も果たしたのです。

美術史・美術検定での位置づけ

歌川国芳は、幕末の浮世絵を代表する絵師として、美術検定でも日本美術の重要人物です。「武者絵」「戯画」「天保の改革」といったキーワードとあわせて押さえておきたいところ。北斎・広重・写楽・歌麿らと並べて知ると、浮世絵の多彩さがいっそう際立ちます。

実物(摺り)はどこで観られる?

国芳の作品は木版画なので、同じ図が複数摺られ、各地の美術館に所蔵されています。近年は国芳の人気が高く、猫の絵や武者絵を集めた展覧会もよく開かれています。版画は光に弱く展示期間が限られることが多いので、観に行く前に各館の展示情報を確認しておくと確実です。

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