レオナルド・ダ・ヴィンチはなぜ「万能の天才」なのか|絵画・科学・解剖でたどる

ダ・ヴィンチは「画家」なのか——それだけではない

《モナ・リザ》の作者として知られるレオナルド・ダ・ヴィンチ。けれど彼の顔は、画家という一言ではとても収まりません。科学者、技術者、解剖学者、建築家……。一人の人間がなぜここまで多くの分野を極められたのか。彼はしばしば「万能の天才」と呼ばれます。

筆者は美術を学び直しているのですが、じつは昔から、一つの分野だけでなく複数の分野で結果を残す「万能の天才」型の人物に強く惹かれます。ダ・ヴィンチは、まさにその代表格。この記事では、彼がなぜ「万能の天才」と呼ばれるのかを、絵画・科学・解剖をつなぐ一本の糸から読み解いてみます。

レオナルド・ダ・ヴィンチとは(基本情報)

  • 生没年:1452〜1519年(イタリア・ルネサンス期)
  • 肩書き:画家・科学者・技術者・解剖学者・建築家など
  • 代表作:《モナ・リザ》《最後の晩餐》《受胎告知》《岩窟の聖母》など
  • 現存する絵画:十数点ほどとされる(きわめて寡作)
  • 残した手稿:解剖図・機械の設計・観察記録などの膨大なノート

ルネサンスは、古代ギリシャ・ローマの文化を見直し、人間そのものに光を当てた時代です。ダ・ヴィンチはその盛期を代表する存在で、ミケランジェロ、ラファエロと並ぶ「三大巨匠」の一人に数えられます。

「万能の天才」——絵画・科学・解剖をつなぐもの

1. 画家として——スフマートと《モナ・リザ》

ダ・ヴィンチの絵の特徴としてよく挙げられるのが「スフマート」という技法です。輪郭線をくっきり引かず、色と色の境目を煙のようにぼかしていく。《モナ・リザ》のあの捉えどころのない微笑みは、口元や目元をこのスフマートで柔らかくぼかすことで生まれています。見る角度や心の状態で表情が変わって見える——その神秘は、技法に裏打ちされたものなのです。

もう一つの代表作《最後の晩餐》では、壁や天井の線がすべて中央のキリストへ集まるように描かれています。「一点透視図法」と呼ばれる遠近法で、見る人の視線を自然と主役へ導く仕掛けです。数学的な遠近法を、そのまま絵の感動に変えてしまう——ここにも、科学と芸術を一人で結んだ彼らしさがあらわれています。

2. 科学者・解剖学者として——徹底した「観察」の人

ダ・ヴィンチは、人体を正確に描くために、実際に遺体を解剖して筋肉や骨、内臓を細密にスケッチしました。水の流れ、鳥の飛び方、植物の育ち方までも観察し、ノートに描き残しています。そのノートは有名な「鏡文字」で書かれ、飛行機械のような未来的な発明の構想まで含まれていました。

3. 絵と科学は地続きだった——「観察」という一本の糸

ここが大事なところです。彼にとって、絵を描くことと世界を研究することは、別々のことではありませんでした。どちらも根っこにあるのは、対象をとことん「観察する」こと。人体を解剖して得た知識が絵の中の人物に生命を与え、光や水の観察が画面のリアリティを支える。芸術と科学が一人のなかで溶け合っていた——それが「万能の天才」の正体だと、筆者は感じています。ちなみに日本でいえば、書・宗教・土木など多方面で足跡を残した空海が、同じ「万能の天才」型として思い浮かびます。

なぜ作品はこんなに少ないのか

これほどの画家でありながら、ダ・ヴィンチの現存する絵画は十数点ほどしかありません。興味があまりに多方面へ広がったこと、そして完璧を求めるあまり、なかなか筆を置けず未完に終わった作品が少なくなかったことが理由といわれます。「描かなかった天才」でもある——そう思うと、残された一枚一枚がいっそう貴重に見えてきます。

美術史・美術検定での位置づけ

ダ・ヴィンチは、ルネサンス盛期を語るうえで欠かせない画家であり、美術検定でも西洋美術史の最重要人物の一人として登場します。スフマートという技法名、《モナ・リザ》《最後の晩餐》といった代表作、そして「万能人(uomo universale)」という時代の理想像——このあたりを押さえておくと、ルネサンスという時代そのものが立体的に見えてきます。

実物を観るには

《モナ・リザ》はパリのルーヴル美術館、《最後の晩餐》はミラノの教会(サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ)にあり、いずれも現地でしか観られません。日本に代表作が来ることはめったにないため、まずは画集や展覧会で予習し、いつか本物に出会う日に備える——そんな楽しみ方がふさわしい画家です。学びを積み重ねておくほど、実物の前に立った日の感動は大きくなります。

学びの記録を残すと、次につながる

実物を観るのはもちろん、「この画家について何を知ったか」を記録しておくことも、立派な美術体験の蓄積です。観た作品や、これから観たい作品を書き留めておくと、学びが一本の線でつながっていきます。

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