1万年前の“美”——縄文土器は、なぜこんなに力強いのか
燃え上がる炎のように、うねりくねる装飾。大きな目をした、どこか宇宙人めいた人形。縄文土器や土偶は、はるか一万年以上も昔に作られたとは思えないほど、強烈な造形の力を放っています。実用の道具のはずなのに、なぜここまで過剰で、不思議な形をしているのでしょうか。
筆者は美術を学び直しているのですが、芸術には「現実を超えたもの」に触れる面白さがあると感じています。理性ではうまく説明できないのに、なぜか心をわしづかみにされる——縄文の造形は、まさにそんな根源的な力を持っています。この記事では、日本美術の原点ともいえる縄文土器・土偶の魅力を、実物を観る前の予習としてまとめます。
縄文土器・土偶とは(基本情報)
- 時代:縄文時代(およそ1万数千年前〜約2400年前)。狩猟と採集の暮らし
- 縄文土器:表面に縄を転がしてつけた縄目の文様(これが「縄文」の名の由来)
- 代表的な形:燃え上がるような装飾の「火焔型土器(かえんがたどき)」
- 土偶(どぐう):土で作られた人形。多くは女性をかたどり、祈りに使われたとされる
縄文時代は、文字も金属もない時代です。それでも人々は、これほど豊かで力強い造形を生み出していました。日本の美術は、ここから始まったといっても過言ではありません。
火焔型土器——“用の美”を超えたもの
火焔型土器は、新潟県の信濃川流域などで見つかる、縄文土器のなかでもとりわけ装飾的な器です。口のまわりが、燃え上がる炎のように激しく立ち上がり、渦を巻いています。煮炊きに使われた実用品と考えられていますが、これほど手の込んだ装飾は、明らかに”実用”だけでは説明がつきません。そこには、火や自然への畏れ、祈りといった、精神的な何かが込められていたのでしょう。用途を超えてあふれ出した造形の力に、圧倒されます。
土偶——祈りをかたどった、謎めいた造形
土偶は、土で作られた人形で、その多くが女性の姿をしています。妊娠を思わせる表現も多く、安産や豊穣を願う、祈りの道具だったと考えられています(諸説あります)。青森で見つかった「遮光器土偶(しゃこうきどぐう)」は、雪よけのゴーグルのような大きな目が特徴で、一度見たら忘れられません。ハート形の顔をしたものや、手を合わせたものなど、姿はさまざま。なかには国宝に指定された土偶もあります。用途は完全には分かっておらず、その謎めいたところも、土偶の大きな魅力です。
岡本太郎が見出した、縄文の美
じつは縄文土器は、長らく「考古学の資料」とは見られても、「美術」として注目されてはいませんでした。その価値を強く世に訴えたのが、芸術家の岡本太郎です。彼は1950年代、縄文土器の荒々しく力強い造形に衝撃を受け、これこそ日本美術の原点だと絶賛しました。「四次元との対話」という有名な言葉で、その造形が持つ、時空を超えたような深さを言い表しています。岡本太郎の再発見をきっかけに、縄文の美は”美術”として広く知られるようになったのです。
実用を超えた“精神”——なぜ心を打つのか
縄文の造形が現代の私たちの心を打つのは、そこに、洗練とは別の、むき出しの生命力や祈りが宿っているからだと思います。上手に整えることよりも、内側からあふれる何かをそのまま形にする。理性で割り切れないのに強く惹かれるという意味では、じつは現代美術にも通じる魅力です。一万年の時を超えて、造形の根源的な力が、まっすぐ伝わってきます。
美術史・美術検定での位置づけ
縄文土器・土偶は、日本美術史のいちばん最初に位置する、まさに「原点」です。美術検定でも、日本美術の出発点として押さえておきたいテーマ。「火焔型土器」「土偶」「岡本太郎による再評価」といったキーワードを知っておくと、そのあとに続く日本美術の流れが見えてきます。
実物はどこで観られる?
縄文土器や土偶は、東京国立博物館をはじめ、各地の博物館・考古館で観られます。火焔型土器は新潟の博物館で、遮光器土偶をはじめとする名品は東京国立博物館などで出会えます。日本各地の遺跡ゆかりの施設にも、土地ならではの縄文の造形が伝わっています。観に行く前に、各館の展示情報を確認しておくと確実です。
観た記録を残すと、記憶はもっと鮮明になる
縄文の造形は、実物の前に立つと、その大きさや手ざわり感、装飾の迫力が、写真とはまるで違って迫ってきます。そうして心が動いた瞬間を記録に残しておくと、後から驚くほど鮮明に思い出せます。「いつ・どこで・どの作品を、どう感じたか」を残しておくと、学びも思い出も積み重なっていきます。
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